日本企業が今するべき「生産性向上」3ポイント


日本企業が今するべき「生産性向上」3ポイント


 



その仕事、本当にやらないといけない仕事ですか?(写真:Tero Vesalainen/iStock)




働き方改革が進む中、生産性の向上が課題になっています。2017年の日本の1時間当たりの労働生産性は47.5ドルであり、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中では20位となっています。生産性はどのようにしたら上がるのでしょうか。





仕事の生産性を高めるためのヒントや課題解決、コミュニケーション能力を高めるなど、さまざまな業種、仕事で役に立つビジネススキルを集めた、中尾隆一郎氏の新著『ビジネススキル・プリンシプル』から一部抜粋し再構成のうえお届けします。




生産性を高めるのは可能なのか



生産性を向上させる――。



昨今、よく言われるスローガンですね。「働き方改革」が進む中、労働時間を減らしながら、生産性を高めるというのは可能なのかという話が聞こえてきます。



政府の「働き方改革」を本気で進めるという号令の中、企業は労働時間削減に積極的です。しかし、労働時間削減をすると、売上の低下、品質の低下、社内コミュニケーションの悪化、部署間の労働時間の不均衡の発生など、問題がたくさん起きるぞ!と、やる前からできない理由も聞こえてきます。



なぜ、生産性が上がらないのでしょうか。「働き方改革」の本当の狙いは、生産性改革です。世界の中で日本の生産性は低いといわれています。工場の生産性は高いので、低いのは、それ以外の部門です。職場ごとに職場特有の課題があるのかもしれません。



当然ですが、すべての個別職場の課題を1つのロジックやフレームワークで解決することはできません。しかし、ざっくり生産性向上をしようという掛け声ではなく、課題を分割してみると、共通に課題解決できる部分もあるのではないでしょうか。



例えば、




・すべての従業員がROI(投資対効果)を意識する

・すべての従業員が制約条件理論を意識し、やることを絞る

・すべての従業員がやらないことを決め、本当にやらない




などがあります。



それぞれのポイントについて説明していきましょう。




1.すべての従業員がROIを意識する




ROIとは、Return On Investmentの略で、投資対効果といいます。直訳すると成果 (Return)が 投資(Investment)の上(On)にあるということです。つまり分数を表しています。R/I=ROIということです。



例えば、10000円投資 (Investment)したらいくらの成果 (Return)があるのか? これがROIです。20000円のReturn(成果)があれば、ROIは2/1=2ということです。



生産性の指標でもある



ROIは生産性の指標でもあります。「1時間投資したらいくらの成果があるのか?」という事を導き出せます。



例えば1時間の会議をしたときに、参加者の時給を合計したり、その会議時間に営業活動ができた場合の期待売上などから投資が計算できます。そして、成果は、その1時間の会議の内容から計算できます。重要な決定ができれば、その会議の成果は大きかったといえるでしょう。それを金額換算して、ROIの値が大きければ大きいほど投資対効果、つまり生産性が高いということです。



逆に小さければ小さいほど、生産性が低いということになります。投資が10000円で成果が10000円未満、例えば成果が9000円とするとROI=0.9になります。10000円投資すると9000円しか返ってこないので1000円損をします。投資したお金が減るので、投資したくないですよね。このような会議などはしないほうがいいのがわかります。



「すべての従業員がROIを意識する」とは、自分の1時間の労働時間は、ROIが1以上であったのかをつねにチェックして仕事をするということです。ROIは分数なので、R(成果)を大きくすることとI(投資)を小さくすることのうちの1つ、あるいは、それらの両方を行うことで、ROIの値、つまり生産性が向上します。具体的には、同じ1時間を使うのであれば、より成果を出せないか。同じ仕事をするのであれば、より短い時間でできないかを従業員1人ひとりが意識して、実行するということです。




2.すべての従業員が制約条件理論を意識し、やることを絞る




ROIの成果に着目します。仕事の成果は、必要なスキルのうち、最も低いスキルに影響されます。



例えば、提案営業職には、「ヒアリング力」「プレゼンテーション力」「クロージング力」という3つのスキルが必要だとします。それぞれ10点満点中5点レベルのスキルレベルが必要だとします。ある営業メンバーのスキルレベルが、ヒアリング力3点、プレゼンテーション力5点、クロージング力8点だとします。



営業結果はどうなるでしょうか。プレゼンテーション力は5点なので問題ありません。クロージングは8点なのでかなりのレベルです。しかし、ヒアリング力3点に足を引っ張られて、結果的に3点レベルの売上しか出せないのです。



これはビジネス書のベストセラー『ザ・ゴール』で有名な、エリヤフ・ゴールドラット教授が提唱している「制約条件理論」によります。制約条件理論では、プロセスの最も弱い部分(制約条件)を強化することで、成果を高めることができます。



上記の例でいえば、「ヒアリング力」のスキルが5点まで強化できれば、売上を効率的に上げることができるのです。制約条件理論に従って、強化すべきスキルに絞り、そのスキルを向上させることができれば、成果が大きくなり、ROIつまり生産性が高まるのです。




3.すべての従業員がやらないことを決め、本当にやらない




もう1つ、ROIの成果に着目して、生産性を高める大切なポイントがあります。



それは「やらないことを決める」ことです。つまり、成果が小さい仕事をやらないということです。よくある話と思われがちですが、本当にこれを実践できているでしょうか。



目の前にたくさんの仕事がある。どれから手をつけてよいかわからない。あるいは、ある仕事をしている途中で、別の仕事がやってくる。どれを優先するのか決めかねているうちに、時間だけが過ぎていく。「あぁ……1日が48時間くらいあればいいのに」「私の仕事の優先順位、誰か決めてくれない?」、そのようなことを思った経験はないでしょうか。



ところが周りを見渡すと、段取りよく仕事をこなす先輩社員や同僚社員がいることに気づくかもしれません。そこで段取りのよい先輩に相談してみます。すると、「仕事の優先順位をつけなさい」とアドバイスをしてくれることが多いようです。やるべき仕事をリストアップして、優先順位の高い仕事から取り組むようにアドバイスされるわけです。



本当に正しい優先順位なのか



大半のビジネスパーソンは、(正しく)優先順位をつけずに仕事をしています。「そんなことはない」と思うかもしれませんが、事実です。もちろん、本人独自の優先順位があるケースもあります。例えば、依頼を受けた順番、急ぎの順番などを優先順位として仕事をしている人です。これらもある意味優先順位ですが、これは正しい優先順位でしょうか。



もちろん、あなたがアシスタントや新入社員であれば、依頼を受けた順番で、段取りよく業務をこなすことで十分かもしれません。しかし、あなたが社会人歴数年以上のビジネスパーソンで、依頼された順番、思いついた順番、気づいた順番に仕事をしていたとすれば、それは順番をつけただけで、本来の意味での正しい優先順位はつけられていないといえるでしょう。



正しい優先順位をつけることができれば、仕事の生産性は少し向上します。しかし、それだけでは、その効果は限定的です。もちろん優先順位をつけないよりは、つけるほうが生産性は向上します。



しかし、繰り返しになりますが、優先順位をつけるだけでは、あなたの生産性は大きく向上しないのです。優先順位を決めるだけだとすると、優先順位の低い仕事も結局は「やる」からです。つまり、優先順位の低い仕事に対しても、あなたは限りある時間を使ってしまうのです。



例えば、「今日は時間があるので、優先順位の低いこの仕事を片づけてしまおう」といった具合に。そうすると、やった仕事とかかった時間は、順番を変えただけで、結局は当初の計画と同じになってしまいます。つまり、生産性はまったく上がっていないことになるのです。



正しく優先順位を決めることに加えて、「やらないことを決める」、そして「その仕事をやらない」のです。そうすると、その「やらない仕事にかかる時間」をほかの優先順位の高い仕事に振り向けることができるのです。とても簡単なことなのです。ただし、やらないことを決める際に、思いついた順番に「やらない」というのでは困ります。大事な仕事なのに、思いつく順番が遅かったのでやらないというのでは、生産性向上以前の話です。



話を元に戻しましょう。仕事の生産性を向上させるためには、やらないことを決める。そして「やらないと決めたことは、たとえ時間があっても絶対にやらないこと」なのです。ここまで話をすると、少し反応が分かれます。「絶対にやらないのは難しい」というのです。



不思議なことですが、自分だけ暇にしていたり、早く帰ったりすると、周囲に対してバツが悪いと感じるようです。そして、時間があると、優先順位が低くて、「やらない」と決めた仕事もついやってしまうのです。そうすると前述したように、生産性は上がらないのです。繰り返しになりますが、重要なのは「やらないと決めたことは、時間があってもやらない」ことです。



人、モノ、金、時間は限られている



ところが、一部の人の反応に「そもそも優先順位の低い仕事などない」というものがあります。ある側面では正しい意見かもしれません。そもそも大抵の仕事というものは「やったほうがよいかやらないほうがよいか」と聞かれれば、大半の仕事は「やったほうがよい」ものが多いでしょう。



しかし、この反応をする人は、重要な観点を忘れています。あなたの時間も、そして会社の資金もすべて有限なのです。限られている人、モノ、金、時間を重要な仕事にだけに集中して取り組む。これが時間の有効な使い方の最大のポイントなのです。





もしもあなたが部下を持つ立場であれば、これを応用して考えてみてください。つまり、担当組織の生産性を向上させる最も重要なポイントは「部下の仕事の中でやらないことを決める」ことなのです。そして、空いた時間の一部で、次の重要な仕事をしてもらえばよいのです。それができれば、あなたの組織の生産性は飛躍的に向上します。



これをROI的に説明すると分子のR(成果)を大きくし、分母のI(投資)を少し小さくする効果があり、ROIが大きくなるのです。ある一部上場企業は、これを「掃除」と表現しています。年に数回「掃除」「中掃除」「大掃除」と名づけて、「やらないことを決めるミーティング」をしています。



聖域を設けずに、今までやってきたことであっても、本当にやり続けるのかをチェックしています。この「掃除」をやりだして数年経つと、言い出しっぺの創業社長が「それも本当にやめるの?」と驚くほど大胆に業務の見直しを行うようになるそうです。あなた自身でも、組織でも、この「掃除」を定期的にやってみることをお勧めします。



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