「一杯3000円」の微妙なコーヒーが売れる理由


「一杯3000円」の微妙なコーヒーが売れる理由


 



一杯3000円のコーヒー、はたしてあなたは飲みたいと思うだろうか(写真:NOBU/PIXTA)



世の中では、高くても意外なものが飛ぶように売れている。しかし「いいものを高く売ろう」と考えても、なかなか実現できない人は多い。違いはどこにあるのか? 『なんで、その価格で売れちゃうの?』(PHP新書)でさまざまな価格戦略を紹介した永井孝尚氏が、その秘密に迫る(本記事は、同書からの引用記事です)。


渡辺直美がブレークした理由は「希少性」にあった



「和製ビヨンセ」をテレビで初めて見た時は、衝撃だった。推定体重100。登場するなり、いきなり激しいダンスパフォーマンスを始めた。歌は完璧。よく見ると口パク。「口パクの女王」だという。踊りと完璧に同期している。踊るたびに波打つお腹を見なければ、どう見てもビヨンセだ。しかし同時にこう思った。



「すぐに消えるんだろうなぁ……」 。……スイマセン。私、間違っておりました。



「和製ビヨンセ」が「渡辺直美」という名前だと知ったのは、かなり後になってからだ。



人気はグングン急上昇。ドラマ主演も果たした。インスタグラムのフォロワー数は、名だたる芸能人を押さえ日本人トップの800万人(2018年8月現在)。2018年にはアメリカ『タイム』誌で「インターネット上で最も影響力ある25人」に選ばれた。「『日本人女性かくあるべし』という常識にとらわれず活動している」からだという。世界のトップ25人である。念のため。



これまでも「デブキャラ」はいた。しかし、ここまでブレークした人はほとんどいない。



なぜ渡辺直美はブレークしたのだろうか? 



まず太っているだけでなく、「明るく、オシャレで、激しいダンスをする」というギャップ感、言い換えれば「希少性」である。芸人としても面白い。2012年と2013年の「史上空前!笑いの祭典 ザ・ドリームマッチ」では2年連続で優勝している。世の中はつねに面白いモノを求めているのである。



本人も努力している。2014年にニューヨークに3カ月間留学し、徹底してダンスと語学を学んだ。その後、仕事の幅が広がり、2016年から急に新しい仕事が増えたという。



いまや渡辺直美は、CMにも引っ張りだこの超売れっ子だ。2018年上期のCM起用社数は11社。女性タレントでは綾瀬はるかやローラと並び、堂々の4位である(ニホンモニター調べ)。



希少なものは高い価値を持つ。しかしそれだけでは不十分。高く売れるには、市場が求めていることが必要なのである。



このように希少なものは高い価値を持つことを、私自身も体験した。コーヒーである。



新宿のカフェでコーヒーを頼もうとしてメニューを開いた瞬間、目がくぎ付けになった。



「コピ・ルアクあります。一杯3000円」



コピ・ルアクは、映画『最高の人生の見つけ方』でもジャック・ニコルソン演じる大富豪が愛飲するコーヒーとして登場した「世界一高い」といわれる伝説のコーヒーである。カフェのメニューで見たのは初めてだ。



ジョークから生まれた高額コーヒー



コーヒー好きの血が騒ぎ、値段のことはいったん忘れて、すぐに注文した。お味は……。正直微妙。独特な香りがするが、500円でもっとおいしいコーヒーはある。実際にコーヒー専門家とコピ・ルアクの話をすると、「ああ、アレねー」と微妙な顔をされることも少なくない。



実はこのコピ・ルアク、ジョークから生まれたものである。



ジョン・マルティネスという人が、高いジャマイカ産ブルーマウンテンを売っていた。しかしお客さんから「ヘイ、ジョン! オタクのコーヒー、高すぎるぜ」と文句を言われたらしい。マルティネスは「ノー! そんな法外なお金は取ってないよ」と知ってもらうために、より高いコピ・ルアクを売り始めたという。彼にとってはジョークのつもりだったのである。



では、なぜおいしいとはいえない、しかも冗談半分で作ったコピ・ルアクが、世界一高価なコーヒーになったのだろうか?



このコピ・ルアク、なんとジャコウネコの糞から取り出したものなのだ。「コーヒー豆」というが実際には「豆」ではなく、果実の「種」である。コーヒーノキという植物の果実から、果肉を取り除いた種の部分がいわゆる「コーヒーの生豆」になる。コーヒー農園では果肉を除き生豆にするために、水洗したり空気乾燥させたりする。



しかしインドネシアのコーヒー農園では、野生のジャコウネコがコーヒーノキの果実を餌として食べてしまう。そして種だけが消化されずに、糞として排泄される。農園でこの糞を丹念に探し出し、きれいに洗浄して乾燥させ、焙煎したのがコピ・ルアクなのだ。



「ジャコウネコの腸内の消化酵素や腸内細菌で生豆が発酵し、独特の香味が加わる」といわれているが、私は正直いっておいしく感じなかったのは、先に書いたとおり。しかし皮肉なことに、一部の顧客から「ジャコウネコの糞から生まれたコーヒー」として希少性を高く評価され、世界で最も高値で取引されるコーヒーとなったのである。



マルティネスの偉業に対して、あのドクター中松も受賞したノーベル賞のパロディー「イグ・ノーベル栄養学賞」が授与されたという。



このような例はほかにも数多くある。現行硬貨コレクターの間では、昭和62年発行の50円玉は、なんと6000円で取引されている。発行枚数が極少で数十万枚に1枚という超レアものだからだ。多くの人たちにとって50円玉は、発行年度に関係なく50円の価値しかない。しかしコレクターにとっては、120倍にもなる6000円の価値があるということだ。



このように、その希少性に価値があるかどうかを決めるのは、あくまでも「買い手」であるお客さんの価値観だ。



お客さんが「希少だ。これは欲しい」と思えば、そのお客さんに売れる。そして希少で、なおかつ世の中の多くの人が求めていれば、渡辺直美のように大ブレークする。しかし数多くの人たちでなくても、ニコルソン演じる大富豪や、現行硬貨コレクターのような人たちがいれば、その人たちには高い値段で売れる。



「どうしても欲しい」と思わせるには



このように商品を高く売るには、世の中に大勢いるお客さんの中で、その商品を本当に必要とするお客さんを見極めて、そのお客さんに「どうしても欲しい」と思う希少価値を提供することだ。そしてそのターゲット以外は、お客さんではない。だから、高く売るためのルールは、極めてシンプルである。



正しいターゲットのお客さんに、正しい価格で売れ!



そのためにはどうすればよいのか。



この「お客さんが必要として、ライバルが提供できない、自社だけの価値」のことを、マーケティングでは「バリュープロポジション」という。



図をご覧いただきたい。





自社の商品が提供する価値だけでは、お客さんは必ずしも買ってくれない。

お客さんが求めている価値と重なっていることが必要だ。

しかし、これだけでもダメだ。競合がその価値を提供できない場合に、お客さんは初めて希少性を感じ、高いお金を払おうと考える。


高い価格で売れるようになるためには、図の濃い部分、「バリュープロポジション」を明確にすることだ。そのためには、顧客視点でお客さんのニーズを徹底的に絞り込むことである。



最近、私はある商品でこのことを実体験した。



わが家で買ったダイソンのヘアドライヤーは、定価4万5000円。ドライヤーとしてはかなり高価だ。世の中のドライヤーは、さまざまな機能を「売り」にしている。しかし風量は大きくない。髪が乾くのに時間がかかるし、熱風は髪を傷めてしまう。



一方、ダイソンのドライヤーの「売り」は大風量のみ。早く乾き、髪も傷めない。妻が使い始めて10日ほど経った時、気がつくと妻の髪はつややかになっていた。



これはダイソンが掃除機や扇風機などで培った強力モーター技術のおかげだ。ダイソンは自らの技術を生かし、「髪を大切にしたい」という女性のニーズを見極め、「大風量」というダイソンならではの価値を提供しているのである。





他社ドライヤーの場合、いろいろな機能を切り捨てられていない。裏を返せば、お客さんのニーズを絞り込めていない。「多機能なモノを安く大量に提供すれば、お客さんに喜んでもらえる」という過去の成功体験からなかなか抜け出せていないのである。



1本1250円のカレー用スプーン



もう1つ、紹介しよう。





近所のデパートで、新潟県燕市で作る食器の展示販売会をやっていた。ここで1本1250円の「カレー賢人」というカレー専用スプーンを売っていた。前から欲しいと思っていたので即購入。いまや安いスプーンは100均ショップでも買えるのに、なぜこんなに高いのか。実際にこれでカレーを食べてみるとわかる。実に使いやすいのである。



このスプーンは左右非対称だ。先端は斜めに緩いカーブを描き、カレーの具材をサクッと切るためにカーブの部分は2ミリほどナイフ状になっている。さらにこの部分は、皿に残ったご飯粒やカレーのルーもすくい取りやすい。いつもよりカレーをおいしく感じたのは、決して気のせいではないだろう。



このスプーンを生み出したのは、新潟県燕市にある金属洋食器メーカー・山崎金属工業の若手開発担当者だ。開発担当者は「カレーの聖地」といわれる神田神保町に通い詰め、店でカレーを食べる様子を実際に観察したり、実際にカレー好きに話を聞いた。お客さんの中には、マイスプーンを持ち込む人もいたという。





そこで気がついたのはスプーンをナイフ代わりにして具材を切る人が多いことだった。この発見を元に開発したのが、このカレー専用スプーンだったのである。



燕市の食器メーカーは高い加工技術を持っている。だからカレー好きの要望に応えることができたのだ。このカレースプーンは2017年7月に発売されるや、高価格にもかかわらず、3カ月で1万本売される大ヒット商品になったという。



このように「高く売る」答えは、現場にある。現場でお客さんのことをつぶさに観察し、徹底的に考え抜くことが、ターゲットのお客さんを絞り込み、高い価値を生み出すことにつながるのである。



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