若者に「チル」という言葉がはやっている理由とは? 「SNSイベント疲れ」が背景に

若者に「チル」という言葉がはやっている理由とは? 「SNSイベント疲れ」が背景に

10~20代の若者の実態にとことん迫り、若者と社会のよりよい関係構築を目指す電通若者研究部(電通ワカモン)が最近の若者の実態から世の中の今後の潮流を探ります。



【関連画像】「電通若者実態調査2015」(15-29歳の男女3000人に実施)



 「今日はカフェで“チル”していました」



 最近、若者の間で“チル”という言葉がよく使われているのはご存じでしょうか? 「今日はカフェでチルしていました~」「この曲チルい!」といった形で使われ、インスタグラムのタグラインとして「#チル」もよく使われています。



 若者たちはどういう意味でこの“チル”を使っているのでしょう。そして、この言葉が使われるようになった背景には何があり、“チル”の拡がりによって今後の消費にどういった可能性をもたらすのでしょうか。



●「チル」って何?



 チルは「落ち着いた」という意味を表すヒップホップ用語の「Chill out(チルアウト)」が語源。「まったりする」「くつろぐ」といった意味で使われています。「チルする」と言うと、「目的は特にないけど楽しくのんびりする」というニュアンスの行動を指します。実際にチルを使っている大学生に話を聞いたところ、このチルという言葉は若者の中でも特にカルチャー系と呼ばれる人たち(ダンサーやDJをしているような層)の間でよく使われているとのことです。



 先述した「今日はカフェでチルしていました~」は、「カフェでゆったりとした楽しい時間を過ごしました」ということを意味していて、「この曲、チルい!」はその曲がゆるめな曲調の(なおかつイケてる)楽曲であることを意味しています。ほかにもその使用シーンはさまざまで、日常会話やSNS上で広く使われています。



●チルが流行る理由は「SNSアクティビティー疲れ」?



 次に「なぜ若者の間でチルが広まってきているのか」について考えてみましょう。



 若者の間でのチルの使われ方を調べてみると、自然に触れて過ごす時間を「チルしている」と表現しているケースがよく見られます。例えば、都会のオフィス街の中にあるちょっとした庭で撮影した写真にタグライン「#チル」をつけて投稿したり、海に行って友達とのんびり過ごすことを「海チル」と呼んだりしています。また、「ひとりで立ち飲み、チルい」というツイートのような、ひとりの時間をチルで過ごす様子もSNS上での投稿から確認できます。



 これは、若者たちがゆったりとした癒やしの時間を求めていることを意味しているのではないでしょうか。SNSが普及した昨今、若者の間ではSNSでシェアできるリアルイベントが活発になりました。そうした需要が増えるにつれ、フェスやファンランといった活動的なリアルイベントが盛んに開催されています。こうした“SNSアクティビティー”に疲れを感じ、より「静的」な活動を楽しむことを求めるようになった結果がチル拡大の一因ではないでしょうか。



 大勢で活発に楽しむイベントに積極的に参加する一方、「ひとりの時間」や「自然に触れる時間」をより強く求めるようになったというわけです。SNSネイティブな彼ら若者にとって、SNSはインフラです。ただ、SNS上での付き合い方は環境に合わせて変化しており、SNSを楽しみつつ、疲れを抑制したいという心理から“チル”が波及していっていると言えるでしょう。

 

若者は人間関係を「整理したい」?



 一方、チルが広がるもう一つの理由として、友だちとの付き合い方の変化も大きいでしょう。小さいころからSNSを駆使している若者たちの人間関係の特徴は、ライフステージが変わっても途切れないこと。増え続ける薄く広い人間関係の中で、若者たちは共感・肯定してくれる“真の親友”の存在を重要視するようになっています。



 15~29歳の男女を対象に若者の実態を尋ねた2015年の調査では、若者の「所属しているグループ数」が平均7.1個存在し、「整理したいと思っているグループ」が平均2.0個もあることが分かりました。このデータからも、若者たちが広がりすぎた「つながり」を整理したいと考えていることがうかがえます。



 こうした本当に親しい存在を重視する傾向の象徴がチルといえるのかもしれません。というのも、チルは、たいてい気心の知れた相手と行います。特に目的もなく長い時間をともに楽しむという、薄い関係性の中では難しい行為だからです。実際に若者から話を聞くと、チルする相手はよく一緒にいる友達や久しぶりに再会した幼なじみなどで、非常にウマの合う人じゃないとチルをしないと言います。イマドキの若者はチルを通して友達とのゆるぎない関係を紡いだり、関係性の再確認を行ったりしているのではないでしょうか。



●“盛り”から“緩み”へ



 チルがいま若者に受けている理由としてさらにもう一つ挙げるならば、画像加工アプリの爆発的ブームがあるでしょう。ここ数年、画像加工アプリがブームになり、若者を中心としながらも幅広い年代で“盛られた”自撮り画像がSNS上で共有されるようになりました。今でも盛り画像は、かわいく撮影できたり、撮影過程から楽しむことができたりとその人気は健在ですが、その爆発的なブームの揺り戻しとして、若者たちが自然な写真を好んで撮影、共有するようになったことがチルを後押ししていると考えられます。



 例えば、タグライン「#チル」でインスタグラムの写真を検索してみると、派手な加工を施している写真よりもナチュラルなものやカジュアルなものが多く散見されます。これは、個性の強い画像加工の揺り戻しで自然な写真を求めていた人たちにとって、チルの無理しない緩やかな雰囲気がちょうど彼らのニーズをとらえたと考えられます。また、この緩みの傾向は写真だけにとどまらず、音楽や空間にもおよび、“チルい○○”を好む若者が増加してきています。



 



チルから生まれる次のヒットとは?



 最後に、こうしたチルの広まりから消費につながるアイデアを考えてみました。



 SNS上で“チル”と検索すると、まれに「チル旅」というものがヒットします。これはチルから派生した表現で、「自然にたくさん触れる旅」「ゆったりとした旅」といったことを意味して書かれているようです。



 この小さな兆しに注目すると、チル旅という旅行商品や“チル旅向け○○”という商品やサービスが考えられます。このチル旅は、アクティブな旅行にはない“癒やし”や、友達との穏やかな時間や会話そのものを目的とした旅行。観光地や旅行代理店は旅行先でユニークなアクティビティーの機会を提供する代わりに、ゆったりと過ごせる環境を用意しています。また、チル旅向けの移動手段を発明したり、旅行雑誌でチル旅スポット特集を作ったり、といったアイデアも考えられます。



 ほかにも、チルの広まった背景の1つである「“盛り”から“緩み”」というキーワードに注目してみると、先述した画像加工アプリブームから派生して、自然な状態を演出するカメラアプリも考えられます。



 例えば、表情認識アプリを応用した“自然体撮影アプリ”。カフェや公園などでスマートフォンを好きな位置に設置しておき、アプリを起動しておきます。すると、枠内の顔の表情を認識し、みんなが自然な表情になった瞬間にカメラのシャッターが切られます。写真自体も自然な仕上がりで、その場の空気感までそのまま切り取ったかのような画像が撮影されるのです。ここ数年ブームとなった画像加工アプリはその撮影過程も楽しまれていましたが、この自然体撮影アプリも意図しないタイミングでの撮影という「偶然性」を楽しめます。



 以上のように、チルという切り口で、“チル旅”や“自然体撮影アプリ”といったアイデアを考えてみました。これらはあくまでアイデア例なのですが、これからチルをテーマにした商品は一つのマーケットになる可能性もありそうです。先に考察したようなチルが広がった背景にあるものは今後の若者における潮流といえるのかもしれません。



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